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右側にもシフトキー?!

第10回 前照灯

2024年03月28日

前照灯

所長
早﨑 保浩

 昨年5月に骨折した。同僚との飲み会の帰り道、雨でぬれたウッドデッキで足を滑らした。手のつき方が悪く、左肩と左手の小指が折れてしまった。幸い手術は免れたが、リハビリはこの3月まで続いた。

 当初2カ月は左肩と左手指を固定。その間、さまざまな試練が訪れた。中でも着替えのハードルは高かった。頭からかぶるシャツやボタンを留めるタイプは諦め、面ファスナーで留めるものに替えた。ベルトも締められず、ウエストがゴムで締まるものになった。靴下を履くのも一苦労。何とか右手だけで履く技を身に着けた。老後にお世話になると思い、衣類は残してある。

 骨折後も仕事を止める訳にはいかず、パソコンのキーボードを右手だけで打つ日が続いた。スピードの遅さは仕方ないが、「?」がどうしても打てず困った。私の右手の大きさでは、左側のシフトキーと右側の?キーを同時に押せないからだ。

 しかし、10日ほどたった頃、突然気付いた。右側にも小さなシフトキーがあるではないか!読者からすれば、ばかげたことだったかもしれない。ただ、右側のシフトキーの存在を本当に知らなかった。右利きの筆者には使う機会が全く無かったからだ。

 DE&I(Diversity, equity and inclusion=多様・公正・包摂)の重要性への認識が高まっている。「公正な機会が担保され、多様な人が活躍できる環境」はまさに重要だ。ただ、なぜ大事なのだろうか?

 まず、DE&Iを通じて社会的な正義を実現する意義は大きい。憲法で法の下の平等が定められていることとも共通する観点だ。次に、DE&Iが進む方が創造的なアイデアは生まれやすいとの視点もあると思う。

 昨年1月、リコーを含む10社で「はたらく人の創造性コンソーシアム」を立ち上げた。新規で有用なアイデアを生み出す創造性は、イノベーションの源泉であり、企業にも日本経済にも大切だ。コンソーシアムでは、チームで創造性を高めていくには、多様な人が自由闊達(かったつ)に情報や意見を交換し合う環境が不可欠との意見が多い。

 「多様性」には性別、年齢、人種、仕事の経験などさまざまな側面がある。これらが組み合わされた多様性にとても魅力を感じる。少なくとも、「シフトキーは左側にしかない」と思う人だけから出るアイデアが創造性に富むとは思えない。このことに気付くのに大きな痛みを伴った。今後は、DE&Iを楽しみながら働く自分でありたいと思う。

早﨑 保浩

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※この記事は、2024年3月26日発行のHeadLineに掲載されました。

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